トルソーとランプの恋

伊灯とみの

 ある都会の街の洋服店には、針金でできたトルソーが飾られていました。彼女はこの店のトップスターで、店先の大きなショーウィンドーに立って、街行く人に最新のファッションをお披露目するのが仕事でした。

 また、この店の軒先には鉄製の洒落たランプが飾られていました。彼の役目は、夜でも人通りの多いこの街で、店の看板とショーウィンドーを照らすことでした。

 初めは、ランプの方でした。毎日毎日、素敵な服を着るおしゃれなトルソーに恋をしたのです。

 「トルソーさん、トルソーさん。あなたはなんて美しいことでしょう。ボクはあなたのような美しい方を照らせることを誇りに思います」

 「あら、美しいのは私じゃなくて洋服の方よ。私はただ立っているだけだもの」

 「いえ、いえ。洋服の美しさを引き出せるのはあなただからです。あなただから、洋服も美しく見えるのです」

 そんな情熱的なランプは、毎晩のようにトルソーのことを褒めました。

 「けれどね、ランプさん。私だって、夜にはあなたがいないと誰にも見てはもらえないのよ。あなたのおかげで、私はいつも以上に美しくいられるのだわ」

 「そ、そんな、めっそうもない。それくらいしか、ボクには能がないですから」

 そんな二人はいつしか、互いに互いのことを好きになっていたのです。

 そんな中、戦争が始まりました。

 トルソーはおしゃれを辞め、質素な服を着続けることになりました。夜の街から灯りが消え、ランプは仕事をすることができなくなりました。それでも、互いは互いのことを想っておりました。

 戦争はますます激しさを増し、とうとう国中の金属は武器になるために集められることとなりました。当然、トルソーもランプも集められました。

 「怖いわ、私たち、戦争に行かなきゃならないなんて」

 「大丈夫、きっと大丈夫さ。いざとなれば、ボクがあなたを守ります」

そんな会話を最後に、二人は真っ赤に燃え盛る火に溶かされて、やがて一ダースの銃弾になりました。
銃弾は長い列車の旅を終え、兵士たちの手元へ届きました。兵士たちはこれが、恋したもの同士のなれの果てだとは露とも知りません。銃弾は鉄砲に入り、敵兵へと放たれました。十二発、放たれました。けれど、どれも敵兵に当たることはなく、ただ土に埋まるのみでした。

土に埋まった銃弾は、風雨にさらされ、やがて錆びて土へと還ってゆくのです。

愛し合った者の結末は、そんな寂しいものでした。これが誰も知らない、戦争の鱗片です。



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